9、ココロ・ノ・シンカイ
僕はまだ夢の最中にいるのだろうか?
目を開いてみても、そこに見える物は暗闇。
全てを覆い尽くす、暗闇……。
息苦しかった。
何かが僕の呼吸口をふさいでいるかのように、息苦しかった。
暗かった。
何かが僕に降り注ぐ明かりをさえぎっているかのように、暗かった。
迫り来る暗闇。
迫り来る、圧迫感。
僕のその全てが今、見えない壁に押しつぶされようとしていた。
だけど……
それも良いかもしれない。
この迫り来る暗闇、圧迫感に押しつぶされ、僕と言う小さな元素を無へと帰すのも、良いのかもしれない。
確かに僕は今、この状況からのがれたいと思っている。
でも、それは果たして『死』と言うものから逃れたいと思っているのと同意儀なのであろうか?
この苦しさから逃れたい。
訳のわからぬ、この苦しさから逃れたい。
ただそれだけが、僕の求めている物なのではないだろうか?
そうだとすれば、死ぬと言う事も僕の求めている答えのうちの一つなのではないだろうか。
今ここには、雨はない。
僕に答えを指し示す、優しい雨はない。
だから、僕は僕一人で答えを探さなければならない。
でも……。
見えない。
雨が見えない。
わからない。
どこに行けばいい?
どうすればいい?
進む道を指し示す物がない今、僕の思考は広く深く暗い、更なる思考の海へと流されてゆく。
抜け出したい。
いや、抜け出したくない。
もう一度戻りたい。
いや、もう戻りたくない。
何が本当で何が嘘なのか、自分の事であるのはずなのに、それさえもわからなくなってしまうような心の最深部に横たわる深海へと、僕の思考はさまよい落ちる。
どうすれば良い?
どうしなければならない?
わからない。
わからない……。
「でも、あなたはあなた。あなたの望むべき道が、あなたの進むべき道」
はるか天上、
深海の表層部、
海の表層部、
大気の表層部、
全ての表層部たるある一点から、僕に向け投げかけられる言葉。
聞き覚えのある声。
懐かしい声。
僕が今一番欲している、声。
「本当はどうしたいの? 本当にこのままこの世から消えてしまいたいの?」
問題の中枢部に深々と刺さりこむ、声。
疲れていた。
確かに生きる事に疲れ、生き延びる事に疲れていた。
ただ生き延びる為だけに生きている、今の時間。
もういい。
もうこれ以上生き延びる為だけに生きていたくはない。
だから、もうこれ以上生きていたくはない。
無意味な時間ならば、その時間を終わらせてしまいたい。
しかし……
「本当に終わらせたいの? もう、この世界には意味はないの?」
この世界における意味。僕の生きているという事に対する意味。
浮かぶ。
脳裏に、意識の狭間にあの少女の姿が浮かぶ。
そして、記憶の底に眠っていた少女の声が、少女のシルエットが浮かぶ。
アジサイ。
雨。
傘。
子供。
家。
近所。
病院。
屋上。
お見舞い。
少女。
事故。
病気。
生。
死……。
視界が回る。
世界が回る。
時間が回る。
思考が、回る。
次々と流れては消える、時間、記憶。
思い出せそうで思い出せない、記憶の中にある少女の姿。
あと少し、あと少しで思い出せる。
しかし、僕の思考は圧倒的なまでの時間の、記憶の流れに流されつつ、暗闇の中へと押し戻される……。
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