
表裏(ひょうり)
この世界には裏と表がある。
一般人にもわけ隔てなく広がる世界と、普通にしていては絶対に見ることが出来ない世界。
例えば、政治の世界。
見えているようで、その実、普通に生活している者にはその門を閉ざしている。
例えば、神仏の世界。
神社などは、表に見えている物と、裏側にあるものはまったく違う。一般人に向けた世界は、そのほんの一部。
そして、電脳世界。
大衆化され、開かれたInternet。
その裏でうごめく、人々。
そして、神………。
第一のメ−ル
「新着メ−ル一通」
画面に映る文字。
不思議と吸引力が有るその文字。
顔も知らない人物の思考の反映。
From Yuki
「始めまして、ユヤさん。突然のメ−ルで驚きの事と思いますが、先日 http://www31.tok2.com/home/MIU/にてあなたの作品を読ませていただきました。私は文章の事などまったくわからないのですが、とても面白く拝見させていただきました。
特に最後の、
『そして神………』
この一行を見たとき、私の心に感じるなにかがありました。
私もこの世界、電脳世界には神が存在するように思います。
私は別に宗教などに入っているわけでも有りませんし、実際、現実の世界で神の存在などを感じた事もありません。お墓参りなどは行きますが、それは別に信仰深いからではありませんし、クリスマスを祝うのも、只ほとんどの人がクリスマスという行事を行っているからです。
恐らく、私は世間一般の日本人といえるのだろうと思います。
しかし、時々インタ―ネットをしている時に、
『この世界にだけは本当の神がいる』
と感じてしまうのことがあります。
私のことがすべてわかっている、いえ、この世界の事がすべてわかっている存在が有ると………」
覚醒(かくせい)
滞り無く過ぎ行く世界。
怠惰なだけの流れゆく世界。
Wireに繋がれ、虚構のみを映し出す、世界。
この世界を結ぶただ一つの線。
虚構のみの世界。
真実を映し出す世界。
「今日さぁ、会社でさぁ…」
「…それで、その親父がさぁ…」
「で、本当うざいよなぁ…」
「…で、どう思う?」
「かったりいよなぁ…」
「ほんと、めんどくさぁ」
僕にとっての世界。
僕だけの世界。
僕だけの…。
無機質な箱がElectricityとTelephoneの力で人と繋がり、
有機的な存在となる。
無機質な箱に命を吹き込む小さなButton。
押す時に感じる、一瞬の快楽。
今日もまた僕のVratualityで、Realityな世界が始まる。
第二のメ−ル
「新着メ−ル一通」
最近、メ−ルチェックをする回数が増えている。
自分の創った詩がどのような評価を受けるか気になるからだ。
…。
……。
………いや、本当は違う。
あのメ−ルが気になるからだ。
From Yuki。
彼女(彼?)は、僕の初めて書いた詩に感想を述べてくれた。
そして、あの短い文の羅列の中で僕の言いたい事を解ってくれた。
だから、
気になっていた。
今日も来ている。
昨日アップしたばかりなのに、もうその感想を送ってくれたらしい。
From Yuki
「お久しぶりです、ユヤさん。新しい作品、読ませていただきました。今回の作品も、私の心に響くものでした。
時間は流れているはずなのに、この世界だけ取り残されたような感じ。
無機質な物が有機的になる瞬間。その時に受ける感動と僅かな快楽、私も同じものを感じていました。
もしかして、ユヤさんはこの世界の神なのではないですか?
まるで私の思っている事が解っていて、それを文才の無い私に代わり公の場で発表しているような気がしてしまいます」
転換(てんかん)
世界が変わる。
表と裏、光りと闇だけの世界に、中庸と言うものが加わる。
限りなく白に近い、黒。
限りなく闇に近い、光。
世界がほんの少し広がった時、自分の中に何かが芽生える。
本来有るべきものではないモノ。
解っていても認められないものを認め始めた時、
Wireで繋がれたこの世界にも新たな息吹が吹き始める。
神が在る世界。
神と言う存在が隠されている世界。
神は、どこに属している?
第三のメ−ル
「新着メ−ル一通」
昨日の夜また新しい作品をアップした。
今日、目覚めてすぐメ−ルをチェックしてみると、やはりYukiからのメ−ルが届いていた。
From Yuki
「昨日の夜、久しぶりに覗いてみたらまた新しい作品を書いたようですね。
今回の作品は何かいつもと違うような気がしました。
何か、迷っているようなそんな感じを受けました。
でも、この詩を読んだ時ドキッとしてしまいました。
私も最近、世界と言うものに疑問を感じていたからです。
ですからこの詩を読んだ時、まるで自分の心を見透かされているような気分になってしまいました。
私は、この世の物事はすべて二元論で片付けられると思っていたのですが、この前会社で、そうもいかないと言う事を思い知らされてしまいました。
白に近い黒。
この言葉を見た時、
『物事は表と裏、二つだけではないんだ…』
と、実感が沸いてきました。
ルヤさん、あなたは、本当に私の鏡みたいな方です。
これからも、心に染み渡る、私の心に共感する詩を書きつづけてください」
Interval
現実世界のユヤ
最近詩を書くペ−スが上がっている。
何故かは解らない。
いや、わかっているが認めたくないのだ。
Yukiからの、メ−ル。
まるで鏡に映った自分が書いているような、そんな気分にさせられるYukiからの、メ−ル。
この、現実世界の事さえも、彼女(彼)は私と同じ様に考え、行動し、同じ結果を出している。
正直に言うと、私はYukiを恐れているのだ。
詩をアップした次の日には必ず感想を送ってくれる。
その感想は、すべて自分の言いたい事を解っている。
すべてが、だ。
始めは
『僕の詩を理解してくれる人がいるんだなぁ』
程度の事としか思っていなかったが、2回、3回と続くとさすがに気味が悪くなる。
文章は、個人の考えを表現する最も簡単なツ−ルだ。ただ、最も簡単なだけに最も複雑な技術が必要とされる。本当に言いたい事を伝えるにはすごく簡単に、ストレ−トに書くか、ものすごく上手く書くしかないのだ。
今の僕にはストレ−トに書く事も、ものすごく上手く書く事も出来ない。だから、言いたいことの半分も伝えられないはずなのだ。
それなのに、Yukiには僕の伝えたいと思っている事のすべてが伝わっている。
何故なのだろう?
Yukiこそが、この電脳世界の神なのではないだろうか
虚構と現実のYuki
最近インタ―ネットに繋げる回数が増えている。
なぜかは解らない。
いや、きっとあのペ−ジに繋げ、彼(彼女?)の作品を読むためだ。
http://www31.tok2.com/home/MIU/
そして、
ユヤ。
まるで鏡に映った私が書いているような、そんな気分にさせられるユヤの詩。
まるで現実世界の私のことを覗いているかのような文章。
正直、ユヤの詩を見るのがこのごろ怖くなってきている。
始めは、
『私と同じことを考えている人もいるんだなぁ』
程度の事にしか思っていなかったが、三つ目の詩を読んだ時、背筋がゾクッとした。
私が勤めている会社で、上司の不正が発覚したその日。
その事を公表しない様に、穏便に済ますようにと社長言ったその日。
白と黒。
灰色。
私の世界観が壊された日。
その日に見たユヤの詩。
私のことがすべて知られている?
やはりユヤは私が思っていたとうり、この世界の
神?
回帰(かいき)
時は繰り返す。
壊れた歯車のように。
すべては一点に集中する。
光りに群がる虫たちのように。
一つはすべてであり、
すべては一つである。
表と裏、相対する二つのモノは、
同一のモノ。
ならば虚構と現実は、
同一のモノ。
Wireでつながれたこの世界とRealityな世界は、
同一のモノ。
最後のメ−ル
最近詩をアップした後の記憶が曖昧になってきている。
大体作品をアップするのは夜中なのだが、その後すぐに寝ているはずが無い。
パソコンの電源を切っているはずだし、お風呂にも入っているはずだ。
それに、次の日起きてみるとちゃんと寝巻きに着替えている。
しかし、その記憶が無い。
いったいどうしたと言うのだろう?
From Yuki
「こんばんはユヤさん。今回の作品も読ませていただきました。
とても面白かったです。
すべては同一のモノ。
その通りだと思います。
最近わかったことがあります。
現実と虚構は同じであり、考えている事とはつまり現実の事なのだと。
私はあなたの事をこの世界の神だと思っていましたが、実は違っていたのですね。
今までのあなたの詩を読んでいとやっとわかりました」
『あなたは私だったということが………』
Final Contemplate
すべては一つであり、一つはすべてである。
虚構は現実であり、現実は虚構である。
すべては一点に集中し、一点は拡散する。
表は裏であり、裏とは表である。
つまり、Yukiはユヤ。
「まさか…」
確かに詩をアップした後の記憶は曖昧だ。その間に僕が僕に宛ててメ−ルを書いていた
可能性は有る。だけど、僕がそんな事をするのか?
僕の詩を理解しているYuki。
あんなにはっきりと僕の意思が伝わっていたのは、僕だからなのか?
もし僕がYukiだとして、じゃあ、僕はいったいどっちなんだ?
僕はYukiなのか?それとも、ユヤなのか…。
…解らない。
……解らない。
………それとも、僕は………。
「は、ははは、ははははははははは…」
End
「湯谷さん、お加減はどうですか?」
ツンとくる消毒液の匂い。
見覚えの無い天井。
微かに感じる、知らないベッドの感触。
自由の利かない身体。
身体のいたる所から伸びる、チュ−ブ。
「ここ、は?」
酸素マスクのせいでくぐもる、自分の声。
重い、とても重い瞼。
僅かに顔を傾けると、そこには白衣を着た男女二人と、泣いている初老の女性の姿。
「もう大丈夫でしょう」
白衣の男性が、初老の女性に話している。
「本当にありがとうございました…」
涙声の女性。
「湯谷さん、もう大丈夫ですよ」
私に話しかけてくる、白衣の女性。
「ここは…?」
もう一度、さっきよりもはっきりとした声で私は尋ねてみた。
「ここは、病院よ。あなたは三日前の夜手首を切って自殺しようとしていたの」
…自殺?どうしてそんな事をしようとしていたのだろう?
「ゆうき、ああ、よかった、本当に………」
さらに大きな声で泣き出す女性。
「ゆうき…?」
聞きなれない名前に疑問が走る。
一瞬、動きが止まる初老の女性。
「あなたの名前でしょ」
名前…。
私の名前……。
何もかもが白くなる。
思い出せない。
私のことを。
「ゆうき、どうしたの?ゆうき!」
「………私は、だれ?」
………………………私は誰…………………………
Copyright (C)2001 Miu.Watase All Reserved
|
|||
|
|