
どうしてかは解らないけど、俺は突然毬藻を飼いたいと思った。
普通、何か生き物を飼いたいと思う時は何かしらの動機が有るもんだと思ってた。
寂しいとか、心を落ち着かせたいとか、とにかくそう言った物が心の内から湧き上がって、それでどうしようもなくなって生き物を飼い始める、そう言うプロセスがあるもんだと思ってたのだが、どうやらそれは違うらしい。
だって俺の場合、ほんとに突然毬藻が欲しくなったんだから。
いや、これも動機と言えば動機なのかもしれない。
でも、もっと大きな何かがあるんじゃないかな、普通は……。
まぁ、考えてたって仕方が無い。とにかく俺は毬藻を飼うべく、近くのペットショップへと急行した。
「あの、すいません、毬藻、有りますか?」
「え?毬藻?……すいませんねぇ、うち、毬藻は取り扱ってないんですよ」
一軒目、玉砕。
それじゃあ、と言う事で、少し離れた所に有るペットショップへ。
「すいません、毬藻、売ってます?」
「毬藻?ああ、ごめんなさいね。さっき売れちゃったのよ」
あえなく撃沈。
気を取り直して三軒目。今度は更に離れた所に有るペットショップへと……。
「ここ、毬藻、あります?」
「毬藻ですか?申し訳無い、毬藻は結構売れ筋だから在庫があるかどうか……」
そう言って奥の方へと入って行く店員。
少しは期待持てそうかも……。
「すいませんね、やっぱりありませんわ」
……何故?
どうしてこんなにも毬藻が無いのだろう?
それとも俺は何か考え違いをしているのか??
もしかして、毬藻はペットショップで買う物じゃなくて、アクセサリ―ショップとか、駄菓子屋とかで買うものなのか?
しかし、急に何かを変えると言うのは難しい物で、俺は次も、更に離れた、俺の家から電車で一時間ぐらいの所に有る某大手ペットショップへと足を運んだ。
「あの〜、もしかして毬藻とか、置いてます?」
「あぁ、はい有りますよ」
よかった、やっぱり毬藻はペットショップで買うものだったんだ……って、当たり前か。まあ、それはそれとして俺は、
「あ、じゃあ一……匹、ください」
めでたく毬藻を手にする事が出来たって訳。
さて、こうして毬藻を飼い始める事になったんだけど、これがまた想像以上に可愛いんだな。
ふわふわとした(想像)まん丸な体つき。
深緑のその愛らしい物腰(?)
少しずつではあるが確実に成長しているその様子を見ていると、それはもう一人の親としての心境に近いものがある。
どんどんと大きくなる毬藻……。
初めは小さな空き瓶(某社海苔の佃煮の瓶)で飼っていたが、一月後には一寸した水槽を買わなくてはいけないほどに成長して……。
ま、毬藻って、こんなに成長する物なの?
そんな疑問を知ってか知らずか、更に成長しつづける毬藻。
その成長の度合いに合わせ、次々と水槽を買い換える、俺。
やがてその大きさは今住んでいる1DKの安アパ−トには収まりきらないほどになり、俺は少し大きめな家に引っ越す事にした。
こいつの為なら何でも出来る。
今まではアルバイトだけで生活していたがそれでは金が間に合わないので、俺は新しい事業を起こす事にした。
その事業は大当たりした。
これで、何気兼ね無く毬藻を飼える。
そして今、
俺は都内から少し離れた所にある建坪200の洋風一戸建てに住んでいる。
窓越しに見える庭には大きなプ−ルがあり、そこには小錦サイズの毬藻が悠々と浮かんでいる。
その回りにぷかぷかと小毬藻達の姿。
そう、俺の起こした事業とは
『都内で毬藻養殖業』
大きくなり続けるこいつのおかげでテレビにも出演し、いまや毬藻業界では知らない物はいないほどの存在になった。
……まぁ、ここまで大きくなる毬藻もどうかと思うが、だけど、そのおかげで俺は一財産を築けたんだから、
めでたしめでたし、だな。
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