
『無能な人募集
我が社では現在、無能な人を若干名募集しております。
我こそはと思う方は
03―8○2×―△△9□
担当 佐々木
まで、ご連絡ください』
仕事帰り、駅の切符売り場近くの柱に、こんな貼り紙がしてあった。
「無能な人かぁ……」
僕は良く会社で無能だと言われる。
仕事を任されても失敗続き。
単純な計算も間違えばかり。
お茶を入れようと思ったら、それはのりだった。
合コンに行ったら、ホモの合コンだった。
挙句の果てに、課長の頭に虫が止まっていたので、
「課長、頭に虫が……」
取ろうとしたら、いっしょに課長のズラまで取る始末。
とにかく僕はすごい無能、らしい。
自分では一生懸命やっているつもりなのに、どうも上手く行かない。
このままでは何時会社を首になるか解ったものじゃない。
そんな時、ふと目に止まったこの貼り紙。
見た瞬間、
『これだ』
と思った。
だから、
「えっと、メモメモ……8○2×―△△9□、っと」
ついメモを取ってしまったわけだ。
それから一週間。
いくら自分が無能だとは言え、その無能さで就職をすると言うのはちょっと気が引ける。
だから、いつも通りの無能さをさらけ出しながら、電話する暇も無く仕事をしていたんだけど……。
やっぱり気になる。
いや、気になるというか、実際問題として、気にしないといけないようになってきた。
どうやら今度、我社で大規模なリストラが行われるらしい。
今はまだうわさの段階だけど、もしそれが本当になったとしたら無能な僕はきっとリストラの対象になるだろう。
そして無能な僕は、きっとその後にまともな職につけないまま寂しく人生を終わらせてしまうのだろう……。
って、そこまでひどくは無いにしても、リストラされる確率は高い。いや、非常に高い。
で、このままではマズイかもしれないと思い、僕は勇気を出してあの会社へと電話してみた。
事は思っていたよりすんなりと進み、僕はその会社の面接を受ける事となった。
で、面接当日。
少し緊張しながら、面接会場であるその会社へとやってきた。
しかし……、
思った以上に大きな会社だ。
貸しビルとは言え、都会のど真ん中、新宿の貸しビルである。
しかも、超高層ビル。
更にはそのビルの30、31階をすべて借りきっているらしい。
少しばかり変に思った。
だって、こんなに立派な会社なのに、どうして無能な人を募集してるの?
そんな僕の思いなどとは関係無く、面接の時間となる。
さっき受付で聞いた話では、今日面接を受けるのは僕一人だけだと言う事だったが、それにしてはこの面接会場の広いこと広いこと……。
うちの会社で一番広い部屋でも、この半分と言ったところか。
そんな広い部屋の中に、何やら偉そうな顔つきのおじさん達。きっと面接官なんだろう。
僕がきょろきょろと部屋の中を見ていると、
「君、まあ、座りなさい」
ど真ん中に座っていたおじさんが、身振りで手前のパイプ椅子を指差す。
そうだった、今日は会社見学をしに来たんじゃなくて、面接をしに来たんだった。
慌てて僕はパイプ椅子に座った。
「さて、では早速聞くが、君は無能かね?」
ほんとに早速だ。
まあ、それでもいいか。
「はい、自分では無能だと思っていますし、人からもよく無能だと言われます」
今は面接に集中しよう。
「では、あなたがいかに無能かと言う事をここで私達にアピールしてください」
僕は精一杯自分の無能振りを示す話をした。
時には笑いを誘うように。
時には同情を引くように。
面接官は僕の話を聞いている間一言もしゃべらず、にこりともしなかったけど。
「では、結果は後日と言う事で」
そして面接が終わった。
結構自分の無能振りをアピ−ル出来た筈だから、きっと採用になるだろうな、なんて思いながら、待つ事数日。
……不採用の通知が届いた。
納得できない。
どうして、あれだけの無能振りを示したのに、採用されないんだ?
僕は抗議の電話をかけてみた。
『面接を受けられた方ですか。では、今担当の物と替わりますので』
受付嬢の声から、何やら聞く人の心を逆なでするような保留メロディとなり、そして、あの、佐々木とか言う担当の男が出てきた。
『どうして不採用になったかですか? それはですね、あなた、あれだけ自分の無能話を話せると言う事は、ある意味才能があるって事でしょ。今の所、うちでは才能のある人は間に合っていますからね』
自分には才能が無いと思っていたけど、
……なるほど、無能になると言うのも才能がいるものなのだな。
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