
よくはわからないんですけど、最近『鉄の豚』と言う商品が売れているらしいんです。
朝のワイドショーなんかでやってるテレフォンショッピングとか、週刊誌などでその名前はよく見かけるんですけど、不思議な事にどれを見ても『鉄の豚』そのものが出てこないんですよね、使用者喜びの声、なんて物はいやと言うほど見ましたが。
初めて『鉄の豚』のCMを見た時、
「ひどい肩こりに悩まされていた私でしたが、この『鉄の豚』のおかげで、とても楽になりました」
とか、
「数年来の腰痛が、『鉄の豚』を使用した事により嘘のように無くなりました」
と言ったような使用者の声が流れていたので、私は、
「また新しいマッサージ器が出たんだ……。でも、変な名前」
ぐらいにしか思っていなかったのですが、次に見た使用者の声は、
「この『鉄の豚』のおかげで、彼女いない歴二十数年の僕にも、やっと彼女が出来ました」
や、
「借金地獄だった私。でも、『鉄の豚』を買ったとたん、急にお金が入ってくるようになりました。はじめは、いつも買っている宝くじがあたった事。それも、百万。それからは、くじと言うくじどれを買っても外した事がありません」
など、マッサージ器へのコメントとしては少し変なものでした。
更に、週刊誌の通販のページに書いてあった一言。
「あなたも『鉄の豚』で、神秘の力を身につけませんか? 使用法は簡単。この『鉄の豚』に毎日100mlの水を与えるだけ。それだけで、数週間後には霊界との交信を楽しむ事が出来ます」
全く訳がわかりません。
いったい、この『鉄の豚』と言うものは、何なんでしょう?
そう言えば、近所の奥様方との話の中でも、よく『鉄の豚』が話題にあがります。
「息子が今度高校受験なもので、うちでも買いましたの、『鉄の豚』」
「まあまあ、あれは良いですわよ。教え方が親切ですし、なによりやる気がありますからねぇ。うちの娘も、あれのおかげで大学に受かったんです」
「うちの旦那、今度部長に昇進したの。やっぱり『鉄の豚』の効果ってすごいわね」
……こうまでも『鉄の豚』の話が出てくると私としても、もう無関心ではいられなくなってしまいます。
ですから、その奥様方に思いきって聞いてみたんです。
「あの、『鉄の豚』っていったい何なんです?」
「あら、まあ、奥様、『鉄の豚』をご存知無いんですの?」
「ええ、お恥ずかしいですけど」
「あれは良いですわよ、奥様もご購入なされてはいかが?」
「はぁ、でも、どのような物だかわからないですから、もしよろしければお教え願えません?」
「いえいえ、私の口からはとても……お買いになって見ればわかりますわ」
しかし『鉄の豚』を持っている奥様方は、みな口をそろえてこうとしか言わないのです。
怪しさがにじみ出ているのですが、しかし、秘密にされればされるほど私の心の中ではどんどんと『鉄の豚』に対する興味が膨れ上がってゆくのでした。
それで、『鉄の豚』を購入する事に決めたんです。
『鉄の豚』……訳がわからない物なのに五万もするんですよ。
夫に言ったらきっと反対されるでしょう。
だから、夫には内緒で私は通販会社に電話したのでした。
……
それから数日後。
私の元に50cm四方ぐらいのダンボール箱が届きました。
送り主は、この前『鉄の豚』頼んだ通販会社です。
「結構大きいなぁ」
重さもかなりの物です。
とりあえず私は、恐らく『鉄の豚』が入っている、と思われるダンボールをリビングへと運びました。
「さて、と」
いよいよご対面。
どきどきしながら、ガムテープを剥がし、口を開けてみます。
中は、細かい発泡スチロールがいっぱいに詰まっていました。
「この中ね……」
そう、この中にあるはずです。
謎の『鉄の豚』が。
恐る恐る、中へと手を入れる私。
ちょうど真ん中辺りに、何か冷たい感触がありました。
「……これね」
私は目をつぶり、箱の中へ両手を入れてゆっくりと『それ』を取り出しました。
やっぱり感動のご対面には、雰囲気が必要ですからね。
で、私はそっと『それ』を床に置き、
一呼吸置いて、ゆっくりと目を開けてみるのでした。
そして私の目に飛び込んできた物とは、
フロ−リングの床に四本の足で立つ、
銀色に輝いた、
『豚』
の姿……。
確かに鉄でできた豚、その通りなんですけど、
「……どうやって使うの??」
いえ、それ以前に、
「……何に使うの?」
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