
今日も砂嵐が流れている。
昨日も、一昨日も、一昨昨日も、記憶する限りこのところずっと砂嵐だ。
目が覚めると真っ先に飛び込んでくる、テレビ画面。
朝も、昼も、夜もずっと砂嵐しか流さない、テレビの画面。
おかしい。
すごく、おかしい。
私はいつものように近くに投げ出されていたテレビのリモコンを手に取り、全てのチャンネルをまわしてみる。
この頃の日課となっている事だ。
どこかでちゃんとした番組が、映像が流れていないか確かめる事、それが私の一日の始まりだった。最近買い換えたばかりのテレビはチャンネル数もばかにならない。CS、BS、普通の
放送局合わせて、ゆうに百は超えている。
しかし、私はその全てのチャンネルをまわす。
…砂嵐
……砂嵐
………砂嵐………
どのチャンネルも、ホワイトノイズ、砂嵐しか流さない。
これも、いつもの事だ。
しかし、私はチャンネルをまわし続ける。
「?」
と、最後のチャンネルをまわした時、私の目にふと飛びこんできた『映像』
激しいノイズがかかってはいるものの、それはまさしく『映像』だった。
久しぶりに見る『映像』
しかしノイズがひどく、はっきりとは見えない映像。
私は目を凝らし、何の『映像』が流れているのかを確かめようとした。崩れ落ちた建物。
時折忘れていたように輝く、閃光。
影と同系色となりうごめく影、戦車。
道端に転がっている、
人、
人、人、
人、人、人、
人、人、人、人、
人人人人人人人人人人人……戦争だ。
これはどこかの戦争の映像だ。
私の寝ぼけた脳細胞が、急に活性化される。
私の脳裏に、ある映像がフラッシュバックされる。蒼壁の空から降り注ぐ、銀色に光る鉄塊の群れ。
大地に落ち、狂気とともに燃え盛る炎。
焼け爛れる建造物。
焼け爛れる、人の群れ。
思い出す…
思い出す……
思い出す………思い出した。
そう、戦争があったのだ。
全てを飲み尽くす、世界を虚無へと陥れる戦争が……。焼かれた。
全てが焼き尽くされた。
あの日、天より降ってきた、恐怖の天使に。
壊れた。
全てが壊れた。
轟音とともに、どす黒き、赤き炎によって。でも、それならば何故私は生きているのだろう?
過去に旅していた私の思考は、現代へと再び舞い戻る。
舞い戻るとともに、瞳の中に映像が映し出される。
そう、今の映像が。私はゆっくりと頭をめぐらせた。
空が見えた。
灰色にぼやけた空が。
壁が見えた。
ひび割れた鏡をその壁面に貼りつかせた、壁が。今まで見えなかった物が、その瞳に飛びこんでくる。
瓦礫に埋もれそうになっている、部屋の床。
壊れた壁から覗く、変わり果てた街の風景。そして……
突如として私は激痛に襲われた。
『何?』
思い出せない。
いや、思い出したくない。
しかし、痛みは私の心とは裏腹に思い出させようとする。あの記憶を
あの情景を見たくない。
知りたくない。しかし、私の視界はそれを映し出す。
周りの物を全て見尽くした後に、映るもの。
それは、
自分自身。
私の目が、ゆっくりと自分の足下へと向けられる。
ベッドに寝たままの私。
身体にそって、布団がかけられている。
しかし、足元に向かうにつれ、まるで私の身体と布団が一体化していくようにそれは平になっていた。思い出す
思い出す……。
思い出したくない
思い出させないで欲しいのに……。現実を見ようとする好奇心が、私に語りかける。
取れ
取ってしまえ
現実は、真理はこの中だ!もう一つの私が語りかける。
知らない方が幸せという事もあるのよ。
やめなさい
知ろうとする事は、およしなさい。しかし、抗いようが無かった。
好奇心と言う名の妄想は、それほどまでに私の心に侵食していた。
知りたい。
例えどんな結果が待ちうけていようとも、真実を知りたい。
私の心は傾く。
好奇心へと。
真理を望む立場へと。
だから、私は、かけ布団を身体から剥ぎ取った。
飛びこんでくる映像。
そこには、
ひざから下が焼け爛れ、
原型を留めていない、
私の、
足。知っていた筈だった。
思い出したいと願った筈だった。
しかし私はそれを見た瞬間、現実を拒絶した。暗くなる。
世界が暗くなる……。
……目が覚めると真っ先に飛び込んでくる、テレビ画面。
今日も砂嵐が流れている。昨日も、一昨日も、一昨昨日も砂嵐だった……
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