Hurt



「冗談はやめてください。彼女のサポートなんて・・・・・・」
 反射的に耳に手を当てる。
 ジジッ。
 雑音の後に聞こえるまるでラジオの声。
 冗談じゃないのは、こっちだ。まだエアポートについたばかりなのに。
 もう彼をロックしてしまったらしい。
 小さなノートを取り出す。
 ××年。・・・・・・じゃなかった、××+1年だ。
 行動を開始する。

「交信記録などは全部ここにあります。持ち出し厳禁ですが、自由にご覧いただけます」
 踏み場のない保管庫を当たり前だと思っていた私は、膨大な量の資料が整理の行き届いたこの空間にあるとはとても信じられなかった。
 呆然とあたりを見回す私を見て、案内係は45度の美しい礼をした。
 ジジッ。
「正直に言えば、彼女とはあまり関わりたくない」
 耳に響いたラジオの声。同時に、開いた扉の間から漏れてくる声。台詞が一致した。二重音声も同然だった。
 立ち去ろうとしていた案内係を呼び止めた。
「今のは、誰?」
 どこかで曲がったらしく、ここに不慣れな私には声の主に追いつくのは不可能だった。
 振り返ると、案内係が首を傾げていた。
「・・・・・・ジェフさんだと思います」
 ジェフ・・・・・・。

『交信記録 第14惑星』と書かれたファイルを開く。
 片道二年と少し。往来が多いのも頷ける。
 そこにエリザの名はなかった。第14惑星にいた頃、ロックしていた人物だ。記録に名前が見当たらないのも、当然だ。彼女は中央政府関係の人じゃなかった。
 第7惑星の状態はかなり良好。青空が見られる。到着した時、景色にどれほど安堵したことか。
 この仕事でまわった惑星の中では一番条件がそろっていた。
 それには、ロックした相手がすぐに見つかったことも含まれる。ひどい時には探し出すだけで何ヶ月も費やしてしまう。
 研究班も、もうちょっと使い勝手のいい物を開発してくれればいいのに。ロックする相手を選べないのは、まったく面倒だ。
 耳たぶがひんやりした。
 まさかね。
 ありえないはずのことを疑った。心の中の文句が電波に乗って伝わるはずがない。
 それでも一瞬、気持ちを読み取るように、右耳につけられた特種ピアスが信号を発したように感じた。
 ジジッ。
「理由? さあな、はっきりしたことはない。けれど、合わない。それだけはわかる」
 ジェフの不鮮明な声。
 濁った聞こえ方は、気のせいだと結論付けていた。だが、違うようだ。ジェフにロックしてから変だ。こんなに故障を匂わせる音だったことはない。
 ファイルをしまって保管庫を出た。

 ロックとはつまり、観察対象をしぼることで、思考や声に共鳴する。私は離れた場所からそれらを聞くのだ。そして、それらを拾う媒体が特種ピアスである。
 私が知るだけでも、特種ピアス・通称 ノビアの装着を義務づけられた者が私以外に2人いる。互いに別のルートから、私たちは、各惑星の状況調査の任務を負った。

「はじめまして、ミス・・・・・・」
「ジュリアで結構です。よろしく」
 ジェフに会う機会は早々に来た。
 推測と実際は違うもので、戦士の肩書きを持つには細身だったし、激しい口調で話す人物と断定するには紳士だった。
 慣れっこの私は、当然のようにその驚きを隠した。
 今現在の状況を知ることが最優先であるため、余計な気が回らぬよう、LN(ノビア装着を義務づけられた者たち)の一員であることは他言無用である。逆に疑われることもないよう、LNメンバーは本職を隠すために別の肩書きを持っている。
「部隊は全部で7つあります。大きく分ければ3つで、今は部隊に属している者の9割が別の仕事を兼任しています」
 第7惑星に来て一番感じたのは、平和であるということだ。大半が他の仕事を兼任していることも頷ける。むしろ、この惑星に戦士がいるという事実が信じられないほどだ。
 それでも、どんなに可能性が少なくても0でないかぎり、備えをしなくてはならない。
 それが、宇宙へ旅立っていった我々に課せられたリスクだった。
「大きく3つというのは?」
「空、陸、そして海です」
「海? 海もあるんですか?」
「ええ、エアポートの東側をずっと行けば」
 今度、時間を見つけて行ってみよう。
 一言で表すのは失礼かもしれないが、第7惑星は幸運を手にしている。
 海まであるとは驚いた。「比較的、環境がよい」と言われていた第14惑星も、第7惑星を前にしたら霞んでしまう。
「とすると、あなたは陸の担当?」
「ええ。第3〜5部隊が陸の担当で、僕は第4部隊にいますから」
 ジェフはあくまで穏やか、冷静。
 疑問が浮かんでは消えた。
 人懐こい性格ではない。けれど、人を毛嫌いする人物には思えない。
 ジェフの言っていた『彼女』とは誰なのだろう?

【本日、ターゲットに接触。ジェフ=ハフマン、第4部隊隊長。】

 ノビアはこちらの都合などお構いなしだ。特定の人物の行動を追っているのだから当然なのだが、時々納得ができない。
 ジジッ。
 機能の悪いラジオのような音が聞こえると思っていた。
「でも、私は彼と組むわ」
 低い声じゃない。
 ありえないはずなのに、耳を疑った。
「だって、それが命令だもの」
 女の声? まさか、ロックしたジェフ以外の人物の声を聞くなんて・・・・・・。
 しばらく呆然としていた。
 気のせいだろうか?
 ジジッ。
 ラジオはまだ続く。私は次の言葉を待った。
「あら、失礼よ、それ。私、こう見えても、命令に忠実なんだから」
 やはり、女性の声だ。どういうことだ?
 可能性その1:ノビアの故障。その2:ロックした人物を変えた。その3:・・・・・・。
 3を考えようとしてやめた。その1は、ありえることだが、どんな状態であれノビアが動いていることは確実だ。その2は、今まで起こりえなかった事態である。また、しばらくの間、ジェフの声が聞こえるか様子を見る必要がある。
 研究班に連絡をとっても、返ってくる答えは決まっている。だったら、このままでいるしかない。
 そんな経緯で、私の仕事は増えた。何が起きようと聞こえてしまった以上、声の主を探さなくてはならない。
 ため息。
『命令に忠実』という言葉は、可能性の完全否定はできないが、一般よりも中央政府関係者の言葉と考えるほうが自然である。
 最近新たな命令を受けた人物。さらに、彼女と会話していた人物は、彼女が命令を承諾していることを懸念していると思われる。
「彼と組むわ」か。
 行動を開始した。

 第7惑星の保管庫は、いつ見ても整然としている。
 中央政府が動き出すような最近の事件,事故。
 きっちりまとめられたファイルを開く。
 赤くチェックされた項目が目を引いた。
 ストラウブ家での一件を皮切りに、その周囲に不可思議な事態が頻発している。
 体中に寒気が走った。この寒気には、「まさか」などという表現は通用しなかった。
 滅びた惑星はどこも必ず不可思議な事態に面した。
 第7惑星も、幸福な生活の裏で、滅びへの軌道に乗ってしまったのかもしれない。
 保管庫を後にした。
 すれ違いに女性が入っていった。
 ジジッ。
『・・・・・・ストラウブ家』
 ノビアが思考に共鳴した。
 振り返った。
「あの・・・・・・」
 何を言う?
 本職を明かせないことは、同時に多くの秘密を作る。
 続きの出ない言葉は彼女には届かなかった。
 でも・・・・・・見つけた、彼女だ。

 ジジッ。
「あくまで今回は調査」
 ジェフの声だ。
 ジェフからロックの相手を変えたわけではなかった。ノビアは、ジェフと彼女の思考と声を拾う。
 可能性その3が姿を見せた。
 その3:第7惑星において、ノビアは2人にロックをした。
 そして、いつもより高度な機能を要求されたノビアは、鮮明さを失った。
「不可思議だからこそ、中央政府が請け負った。そして、事件の内容から、戦士を派遣することに決めた」
 不可思議な事件?
 ばらばらのパズルが安易につながっていく。でも、それが本物の答えなのかもしれない。
 ノビアからの次の声を待った。
「冗談じゃないことは山々だが、この決定は覆らないそうだ」
 ジジッ。
 声がさらに濁っていく。
 もう少し、もう少しだから切れないでほしい。
「ああ、明後日、ストラウブ家周辺に調査に行く。彼女のサポートで」

 物事とは、単純に見えて複雑で、複雑に見えて意外と単純なのである。
 ストラウブ家をキーワードに、ターゲットが見つかり、そして、つながった。
 エル=ローランド、第5部隊隊長。
 すれ違ったその印章だけで判断はできない。しかし、ジェフの毛嫌いは過度ではないかと感じる。
「はじめまして、ジュリア」
 エルはそう挨拶した。
 普段表情を崩さないジェフが、その挨拶に対し、『ああ、やはり』と嘆いていた。
 なるほど、ジェフとは対極に位置する性格らしい。
「調査に同行させてもらいます。よろしく」
 元気娘でもなく天真爛漫でもおてんばでもない。
 表現するのは難しい。
 このミステリアスな部分が、ジェフの癇に障るのかもしれない。

【ストラウブ家周辺で不可思議な事態が頻発。エルとジェフの調査に同行。原因つかめず。】

 真っ白な部屋はカフェを意識した休憩所になっている。
「コーヒーはいかが?」
 両手にカップを持ったエルが、同じ丸テーブルに腰掛けた。
「煮詰まってる?」
 彼女と話す時、遠慮や謙遜などは、とても遠い世界の代物だと思う。当然のように湯気の立つコーヒーカップを受け取ることが、この世界では一番自然に思う。
「当たり」とも「はずれ」とも口にせず、彼女ははにかんだ。
「・・・・・・ジェフはね」
 わかりやすい答えだった。
「ジュリアは?」
「お手上げ」
 ストラウブ家の調書にペンを投げた。
「困惑しても挑戦するか、八方塞だけど無難な道を行くか」
「?」
「ジュリアはどっちを選ぶ?」
 TPOによる。ずるい答えだ。
「・・・・・・エルは、前者を選びそうね」
 エルは笑った。
「前者にするなら、聴いて、そのうち」
 エルが席を立つ。
 いつの間にか彼女のカップは空になっていた。
「エル」
 ジジッ。
『勘、いいの』

 私がLNであることは秘密である。
 他言していない。ばれるような行動を取った覚えもない。
 コーヒーをおかわりした。
 ノビアを通して、話し掛けてくるなんて。・・・・・・前代未聞だ。
 
【エルは、LNの来星とそのLNが私であることに気づいた。】

 何度か書き直して、また書いた。そしてまた、最後に消した。
 ジェフやこの惑星の別の人物も気づいているのだろうか?
 この疑問は皆無だ。それはない。
 エルはどうする?
 これも問題ないように思われた。
「聴いて」か。
 彼女は不可思議な事態の何かに気づいている。
 それが彼女の勘であったとしても、ここまで見事にいいのなら、信じてみたくなってしまう。
 目を閉じた。ひたすら無心になろうとした。外界から自分を切り離すように。
 ジジッ。
 エルの思考が木霊する。
『ストラウブ家周辺には、ところどころに変な空気が混じってた。本当に微妙だけれど、風の流れが狂う場所があった。一瞬、人の形に似た、薄く青白い光が通り過ぎていくのを見た』

【リスク発現。】

 変な空気。私に理解することは難しい。
 風の流れの違いなら肌で感じることができると思った。エルの言った『微妙』とは、本当の意味で微妙なのだと感じた。
 私自身がリスクを確かめることはできない。
 ストラウブ家は静かにそこにあった。家屋が壊れたり、悲惨な状態に荒れているわけでもない。ただその場所から、人の気配が消えただけ。
 エルが横を通り過ぎていった。
 先の一点を見つめたその姿は、何かを追いかけているようにも見えた。
 ・・・・・・リスク?
 かつてかけがえのない星を失い、やがて人々は宇宙に散り散りになった。けれど、決して安全を約束されているわけではなく、少しずつ少しずつ仲間からの連絡が途絶えていった。
 そして、第7惑星もその仲間入りをしようとしている。
『ずっと観察してるみたい』
 数度目の調査の後に、エルはそう電波を送ってきた。
 テレパシーと表現したほうがもっと近いのかもしれない。
『・・・・・・警戒のオーラだけが痛いくらいに伝わってくる』
 ほんの小さな間だった。
 私にはそれがとても大切に思えた。
 まだ、他にあるのかもしれない。少なくとも、エルの考えの中では。

【本日、ストラウブ家の調査終了。】

 成果のあげられない調査ではなく、もともと何もなかったと結論が下された。
 真実は明らかにされぬまま、怪奇事件として人々の記憶に処理される。
 エルは知っているし、エルが知っていることを私は知っている。でも、エル以外誰も、真実を感じたり見たりできない。だからそう、誰も証明できない。
『任務での調査は終わってしまったけど、もう一度行ってみる』
 ノビアが濁った信号を送ってきた。
 ちょうど、隊の制服を慌てて羽織った男性二人が廊下を駆けていった。
 あちこちでバタバタと音がする。建物そのものが緊張を帯びながら騒ぎ始めたようだった。
 何事?
 走りながら器用に髪を結った女性を捕まえる。見慣れないユニフォームが彼女を部隊隊員だと認識させた。
「どうしたの?」
「・・・・・・わかりません」
 彼女はそのまま駆けていく。
 ジジッ。
「そんなまさか。調査の時には何も見つからなかったのに」
 ジェフだ。
 調査? ストラウブ家の件と関係がある?
 続きが知りたかった。
 嫌な予感が胸を締め付ける。
 それを嘲笑うかのように、ノビアからの信号は途切れた。
 ジェフはどこに行った?
 建物のどこにもいなかった。むしろ、建物がほとんどもぬけの殻状態だった。
「大半が仕事を兼任している」というのは、そういう意味なのだと改めて理解した。
 平和に浸かりすぎて本物の任務を忘れつつあった。
 見つけた隊員の誰もがそんな顔をしていた。
 額の汗から伺える焦りの色が、第7惑星も辿ったカウントダウンを始めたのだと匂わせた。
 何もない空間で、そう、リスクなど想像つかない場所で、隊員が崩れ落ちた。
 たった100メートル。
 その距離が、遠くに感じた。
 ふと気づけば、あちこちで悲鳴が響いている。
 倒れ込んだ隊員を抱きかかえた。
 すでに息絶えていた。
 これがストラウブ家周辺に起こった不可思議な事態?
 ジジッ。
『ジュリア! 無事? 今そっちに戻っている、すぐ行くから!』
 エル!
 唯一の救いの道だと感じた。

 エルからの信号を待った。
 一分一秒が長い。
「ジュリア!」
 エルの声に振り返る。
「こっち」
 彼女に誘導されるままに走る。
 民家から離れた空き地に、十数人が集合していた。
『青白い光がいくつも見える』
 互いに背中合わせになって円を作りながら、皆が脅えている。前方注意は暗黙の了解。
 エルが前に進み出た。
 誰もが体を強張らせ、さらに円を小さくした。
 空中で、彼女の剣がアンバランスに静止した。
 私には何も見えない。けれど、明らかにエルの目前に何かが存在する。
 シュッ。
 何かが蒸発するような音が聞こえたかと思うと、一瞬、光を見た。
 体を寄せ合う人々は、変わらず何も見えない空間を怖れ、視線を左右させている。
 光を見たのは私だけ?
「エル」
 彼女は振り返らない。
 無力な私たちを後ろにかばい、さらに前に進み出た。
 再びエルの剣が空中を舞う。
 そして、一瞬、光を見る。
 どうやら、消える瞬間だけ、私は光の存在を確かめられるらしい。
「ここにいて」
 エルに守られていた人は、その言葉の意味に泣きそうになる。
「静かにここに座っていて。それが一番安全だから」
 誰も騒がなかった。誰も喚かなかった。
「ジュリア」
 恐怖の割合が減っていた。
 私はエルと共に走り出す。
「私も見たわ、青白い光。光が消える一瞬のみだけど」
「ジュリア、これ持ってて」
 渡されたのは短剣だった。
 私は困った顔をしていたと思う。
 エルは「念のため」とは言わなかった。

 3人組の隊員が見えた。
 内2人はすでに横になっていた。残った1人が狂ったように剣を振り回している。
 皮肉だった。
 数メートル数秒の差で彼も倒れた。
 エルが剣を振った。彼の剣では受け止めることのできなかった光を。
 ただ剣を振っても切れない。
 エルはどうして?
「この光は、存在している。でも、存在していない」
 深く詳しく訊かなかった。
「それが答えなのだ」と脳が語っていた。
 リスクとは無縁と思われた地に、確実に終幕が迫っていた。
 光に対抗できるのはエルだけ。
「ジェフ」
 平べったく厳つい剣が空気を切って大きく叫ぶ。
 ただ1人の空間で、彼は過酷な訓練を受けているようだった。
 エルがその周囲を切り裂いていく。
 そこら中に光があった。
 ジェフも私もただ守られた。
 舞を踊るように流れる剣は、集まる光に留まることを知らなかった。
 自分に向かう風を感じた。
 咄嗟に翳した短剣に、未だ知らぬ感触を覚える。目前に青白い光。
 光が、見えた。
「ジュリア!」
 ジェフの剣は空振るばかり。
 彼をエルが必死に守る。
 エルも私も一歩も動けなかった。光との力の差が対等になり、切りきれなかったのだ。
 この瞬間にも光は集まってくるだろう。
 汗がつたっていった。
「・・・・・・ダメ!!」
 エルの視線が流れた。
 身動き取れない状態で、彼女は片手を必死に伸ばした。
 見えた光景は1つ1つがスローで鮮明に目に飛び込んできた。
 ジェフに向かった光が、エルを飲み込んでいく。
 彼女の剣がゆっくり落ちた。
「光?」
 初めて見た光にジェフは呆然とした。
「おい!」
 天を仰いで倒れるエルをジェフが慌てて支えた。
「エル!!!」
 私は叫んだ。
 押し寄せてくる力が一気に消え去った。
 なぜかこの空間は青白い光から開放されたように感じた。
 どうやったのかはわからない。
 わかることはただ1つ。目前の光は消えた。
「おい! おい! ローランド!!!」
 瞼は開かなかった。
 ジェフは声を荒げた。
「目を開け! 目を開けよ!!」
 エルの体を揺さぶった。激しく揺さぶった。けれど、彼女は目覚めなかった。
「・・・・・・なんでだよ」
 やりきれない空虚感があたりを包み込んでいた。
「俺がお前を嫌っていたの、知っているだろ? なんで、そんなヤツ、助けたんだ? ・・・・・・エル!!」
 笑ったように見えたのは気のせいだっただろうか?
『やっと名前言ってくれた』
 彼女の言葉をなぞるように、私はそれを口に出した。
 ジェフの視線が彼女と私の間を往復した。
「・・・・・・なんだよ、それ」
 ジェフはもう一度エルを見た。そして、もう一度呟いた。
「なんだよ、それ・・・・・・」

 辺りは再び光に囲まれていた。
 ジェフもそれを感じ取っていた。見えるようになっていたのかもしれない。
 どこか遠い場所での喧騒に似た現実の音を,悲鳴を体中に浴びて、惑星が眠っていく様を見据えていた。
「移動機が近々出る予定だった。準備はほとんど完了しているはずだ。今行けば助かる」
 それは、ジェフの別れの言葉だった。
 私は駆け出した。
 振り返った。
 彼はその手に強くエルを抱きしめていた。
 2人の体が地面に吸い込まれていった。
 悲しいほどにいとおしかった。
 ノビアをはずす。
 案外簡単にはずれるものだ。
 他の惑星で、他の人をロックしたいとは思わない。
 手には短剣。
 私は2人のほうへと走り出す。
 最後の抗いだった。

 いつか壁にぶち当たるかもしれない。たとえばその1つに共存問題。たとえばその1つに環境問題。たとえば・・・・・・。いくつものリスクを負って、それでも幸せを追ってしまう。
 ノビア装着を承諾した時、立ちはだかる痛みを覚悟した。それは時をつないでいく大切な過程だから。
 第7惑星のリスクの謎は永遠に明かされることはない。
 軟弱につながった細いラインは途切れ、すべては記録の一部となる。
 音が消えていった。
 これが第7惑星の物語。
 そして・・・・・・。

『なんだよ、それ・・・・・・。なんで・・・・・・。君だったのか・・・・・・。エリー・・・・・・』
 忘れられた幼いの記憶。
『約束したでしょ? 今度は私があなたを守ってあげる』
 2人しか知らない昔語り。
 これがエルとジェフの物語。
 過去と未来をつなぐ、せつないほどの・・・・・・。

narrated by  Julia Williams





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2004.5.



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